兵庫教育大学・鈴木正敏教授 インタビュー | 取材・文=キッズアート編集部 | 取材 2026年7月

冷蔵庫に貼った、こどもの絵。ぐるぐるの線や、顔から手足が生えた、ふしぎな人。

「上手だね」と言いながらも、正直、なにを描いたのかよく分からない——そんなこと、ありませんか。

でも実は、その一枚には、その子の“成長”が、まるごと表れているんです。

子どもの絵から、いったい何が読み取れるのか。兵庫県内の保育所・こども園・幼稚園を、数多く回ってきた幼児教育の専門家・鈴木正敏教授(兵庫教育大学)に聞きました。

この記事の要点(30秒でわかる)

  • 子どもの絵は、成長そのものが表れる「記録」。
  • 絵の育ちには順番がある:点 → 丸 → 顔 → 頭足人(とうそくじん) → 全身。
  • 「顔が大きい」「手が描かれた」など、絵にはその子の“今”のサインが出る。
  • 絵には2つの役割がある。“感じたこと”を表す絵と、“考えたこと”を形にする絵。
  • この「なんでも描く時期」は、長くは続かない。時系列で並べると、その子らしさ(個性)が見えてくる。

そもそも、子どもにとって「絵を描く」って何ですか?

―― 子どもは、どうしてあんなに絵を描くのでしょう。

本当に自然な営みなんです。何かあったら、すぐ描き出す。小学校で運動場に出たら、すぐ地面に描くでしょう。ほぼ本能なんですよね。

「ちっちゃい子にとっては、絵を描くことは、生きることみたいな感じですから」(鈴木教授)

もっとも、最初から描けるわけではありません。鈴木教授は、こんな“始まり”を、楽しそうに教えてくれました。

「1歳、2歳の子は、ほとんど描かないまま、クレヨンをしゃぶっていたりするんです。でも、ちょっと上の子がクレパスを持っているのを見ると、自分もやってみたくなる。そうやって、少しずつ描き始めるのが、面白いんですよ」(鈴木教授)

その小さな一歩から、すべてが始まります。

だからこそ、その一枚には、その時のその子が、まるごと表れている。まずは、その“育ちの順番”から見ていきましょう。

動画:描くことは、生きること

動画|描くことは、生きること(1:20)

絵には、成長の“順番”がある

子どもの絵は、いきなり上手になるわけではありません。はっきりとした発達の順番があります。

① 点々・ぐるぐる期(だいたい 1歳半〜3歳ごろ)

はじめは、点々。そして、ぐるぐる。まだ「何か」を描いているわけではありません。でも、これがすべての出発点。手を動かすと、跡が残るという、大発見の時期です。

② 丸になり、名前がつく(だいたい 2〜3歳)

ぐるぐるが、だんだん円に。そしてある日、「これ、ママ!」。描いたものに、名前をつけ始めます。頭の中のイメージと、紙の上の形が、結びつき始めた証です。

③ 顔になる(だいたい 3歳ごろ〜)

円に、目がつく。「顔」が生まれます。鈴木教授が、なかでも大切だと話すのが、この瞬間です。

「顔が描けるようになるのは、周りの存在に気づいた証なんです。『お顔が見えて、オメメがある。ということは、ちゃんと私や僕を見てくれている人がいるんだ』——それが分かってくる。その瞬間に立ち会えると、本当に素敵ですよ」(鈴木教授)

④ 頭足人(とうそくじん)(だいたい 3〜4歳)

顔から、直接、手や足。胴体は、まだありません。

⑤ 全身が、現れる(だいたい 4〜5歳)

頭足人に、胴体が出てくる。手も描かれるように。ぐっと「人らしく」なります。

💡 用語メモ|頭足人(とうそくじん)

顔から直接、手足が生えているように見える、幼児期によくある人物画。胴体が省略されているだけで、まったく自然な発達です。ここから胴体が出てくると「大きく育ったね」、手が描かれるようになると「自分の表現ができるようになってきたね」のサイン。

あわせて読みたい:▶ 関連記事「【実例で見る】子どもの絵は、こんなふうに育つ」

一枚の絵から、こんなことまで見えてくる

絵には、その子の“今の気持ち”も、そっと表れます。

たとえば、自分の顔を大きく描く時期。これは、自信を持って前に進んでいるサインだと、鈴木教授は言います。

「園に、ちょっと大人しくて、大丈夫かなと思っていた子がいたんです。でも、ぱっと絵を見たら、真ん中にドンと大きな自分を描いていた。それを見た途端に、『あ、この子は大丈夫』と分かるんですよ」(鈴木教授)

絵は、言葉にならない“内面”が、静かに出てくる場所なのですね。

🌱 大切なこと:絵の育ちには、大きな個人差があります。年齢はあくまで目安。そして、絵だけで、その子の心のすべてが分かるわけではありません。「上手・下手」ではなく、「今の育ち」を楽しむ——それが、いちばんです。(もし気になることがあれば、絵だけで判断せず、園の先生や専門機関にご相談を。)

動画:絵でわかる心のサイン

動画|絵でわかる心のサイン(2:34)

絵には、2つの役割がある——「感じる絵」と「考える絵」

ここからは、少し意外なお話です。

じつは、子どもの絵には、2つの役割があります。

ひとつは、楽しくて、感じたことを、そのまま描く「感じる絵」。子どもの絵の大部分は、これです。自然にあふれ出る、豊かな表現。

もうひとつが、あまり知られていない——「考える絵」。つまり、頭の中で考えたことを、形にするための道具としての絵です。

鈴木教授が、こんな例を教えてくれました。

「たとえば、お祭りの屋台。『どんな屋台にしたい?』とみんなに聞くと、それぞれ絵に描いてくるんです。『ここが、こうなってて』と主張しながら。それを一度で終わらせず、何度も描く。すると、だんだんみんなの認識が細かくなって、構造ができてくる。設計図そのものが、育っていくんですよ」(鈴木教授)

絵で考え、絵で話し合う。何度も描き直す。すると、客観的に物事を見る力が育っていく。絵は、こんな役割も持っているのです。

「絵で考える」を、保育の中心に置いた町がある

実はこの「絵で考える」ことを、保育のまんなかに据えて世界的に有名になったのが、北イタリアの町・レッジョ・エミリアの幼児教育です。子どもを「自ら学ぶ、豊かな存在」ととらえ、絵などの表現を通して、子ども自身が世界を探究していく——。その考え方は、いまや世界30か国以上に広がっています。

▶ くわしくは、別記事「レッジョ・エミリアとは?子どもの“100の言葉”を大切にする幼児教育」で紹介します。

むずかしく考える必要はありません。ご家庭でも、「上手・下手」で見るのをやめて、「この子は今、何を考えているんだろう」という目で絵を見る。それだけで、子どもの絵は、ぐっと面白くなります。

でも、だんだん描かなくなる——だから、今

ここで、少し切ない話も。

幼児期は、本当に自然に絵を描く時期です。紙とクレヨンがあれば、放っておいても描く。ところが——

「だんだん大きくなると、学校の図工の時間に『さあ、描きましょう』となる。すると、身構えて、だんだん描かなくなるんです。落書きはするんですけどね。だから、幼児期は本当に自然に描く時期なので、どんどん描かせてあげてください」(鈴木教授)

つまり、この「なんでも、自由に描く時期」は、長くは続かないのです。

今、目の前で量産される、あのぐるぐるや頭足人。それは、今この瞬間にしか描けない、二度と戻らない一枚でもあります。

時系列で並べると、“その子らしさ”が見えてくる

もうひとつ、鈴木教授が「面白い」と何度も口にしたのが、絵を時系列で並べて見返すことです。

「うちは男の子が3人いるんですけど、3人とも、表現の仕方が全然ちがうんです。小さい頃は、車を描いてもお花を描いても、そんなに変わらない。でも、年数を追うごとに、その子の個性が、だんだん出てくる」(鈴木教授)

さらに、写真のアルバムと、絵や作品を並べて見返すと——

「その時の記憶が、うまく立体的に再構成されるんです。こんな気持ちで、こんなことをやってたんだな、と。でも、作品だけを集めたものって、意外と無いので、それがあると嬉しくて」(鈴木教授)

一枚一枚は、何気ない。でも、並べて、残してみると、こんなにも「その子の育ち」が見えてくるのです。

絵は、その子の“成長そのもの”

まとめます。

  • 子どもの絵には、成長の順番がある(点 → 丸 → 顔 → 頭足人 → 全身)。
  • 一枚の絵に、その子の“今のサイン”が出る。
  • 絵は、感じるだけでなく、考える道具にもなる。
  • そして、この時期は長くは続かない。時系列で並べると、その子らしさ(個性)が見えてくる。

子どもの絵を残すことは、ただの記録ではありません。その子が、どんなふうに世界と出会い、考え、育ってきたか——その物語を、まるごと残すことなのです。

▶ 「残すこと」が、なぜその子の自信につながるのか。くわしくは関連記事「子どもの絵を残すと、自己肯定感が育つ」で。

私たちキッズアートにできること

ここからは、少しだけ私たちの話を。

キッズアートは、かさばる子どもの作品を、「誇れる形」に変えて未来へ残すサービスです。

なかでもアーティストブックは、作品を時系列で一冊にまとめるもの。「点々だった絵が、こんな絵に育った」——その成長の物語を、いつでも見返せます。この記事でお伝えした“育ちの順番”や“その子らしさ”が、ページをめくるだけで伝わってきます。

作業はすべて、兵庫県西脇市で完結(国内一貫・海外委託なし)。原本は、返却 or 供養(お焚き上げ)にも対応します。

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よくある質問(FAQ)

Q. 子どもの絵から、発達がわかるのですか?
A. ある程度わかります。子どもの絵には「点 → 丸 → 顔 → 頭足人 → 全身」という発達の順番があり、どの段階かで、その子の育ちの様子が見えてきます。ただし個人差が大きく、あくまで目安です。

Q. 顔から手足が出て、胴体がない絵。大丈夫でしょうか?
A. まったく問題ありません。「頭足人(とうそくじん)」と呼ばれる、幼児期によく見られる自然な発達段階です。ここから胴体が出てくると、成長のサインです。

Q. 絵が上手か下手かは、関係ありますか?
A. 上手・下手で見る必要はありません。大切なのは、その子が「今、どんな育ちの途中にいるか」。「上手だね」より「この子は何を考えて描いたのかな」という目で見ると、絵はもっと面白くなります。

Q. 最近、あまり絵を描かなくなりました。
A. 幼児期を過ぎると、自然に描く量が減っていくのは、よくあることです。無理強いはせず、描きたくなった時に描ける環境を。だからこそ、たくさん描く幼児期の一枚は、貴重です。

Q. 子どもの絵を残す意味は?
A. 絵はその年齢でしか描けない、成長の記録です。特に時系列で残すと、その子らしさ(個性)や育ちの物語が見え、あとから見返す大きな喜びになります。


おわりに

子どもの絵は、今しか描けない、その子の“今”。
ぐるぐるの線も、ふしぎな頭足人も、全部が、かけがえのない成長の一コマです。

「上手だね」の一歩先へ。「こんなに育ったね」という目で、お子さんの絵を見てみると、毎日の一枚が、少し愛おしく見えてくるかもしれません。

インタビュー全編(編集版)

先生のお人柄が、いちばん伝わるのは、やっぱり動画です。もっと深く知りたい方は、ぜひどうぞ。

動画:鈴木正敏教授インタビュー全編(編集版)

見どころ:絵でわかる発達のサイン/絵は「考える道具」/時系列で見る個性 ほか(1:06:30)

取材協力・監修

鈴木 正敏(すずき まさとし)教授

兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 小学校教員養成特別コース。専門は幼児教育・多文化教育。米国での研究歴を持ち、兵庫県内の保育所・こども園・幼稚園で長年にわたり実践指導を行う。3児の父。

※本記事中のコメントは、2026年7月に実施したインタビューに基づき、読みやすさのため一部を編集しています。