取材協力=兵庫教育大学・鈴木正敏教授 | 文=キッズアート編集部 | 取材 2026年7月

「レッジョ・エミリア」——子育てや教育に関心のある方なら、一度は耳にしたことがあるかもしれません。1991年にアメリカの『ニューズウィーク』誌が「世界で最も優れた学校のひとつ」として紹介して以来、世界中から視察が絶えない、いま最も注目される幼児教育のひとつです。

でも、「名前は聞くけれど、実際どんな教育なの?」という方も多いはず。

この記事では、幼児教育を専門とする鈴木正敏教授(兵庫教育大学)のお話も交えながら、レッジョ・エミリアの歴史・考え方・特徴、そして家庭でも取り入れられるヒントまで、やさしく紹介します。

この記事の要点(30秒でわかる)

  • レッジョ・エミリアは、北イタリアの町の名前であり、そこで生まれた幼児教育の呼び名。
  • 始まりは、戦後、村の人々が自分たちの手で建てた、一つの学校だった。
  • 核にあるのは、「子どもには、100の言葉がある」という考え方。
  • 子どもを「教えられる存在」ではなく、「自ら学ぶ、豊かな存在」ととらえる。
  • 大げさな準備がなくても、家庭でも、その“まなざし”は取り入れられる。

レッジョ・エミリアの、心を打つ“始まり”

まず知ってほしいのが、この教育の始まりの物語です。

第二次世界大戦が終わった直後。北イタリアのレッジョ・エミリア近郊、ヴィッラ・チェッラという小さな村で、人々は動き出しました。

戦争で壊れた建物から、レンガや石を拾い集める。ドイツ軍が残していった戦車を売って、資金にする。そうやって、村の人たちは、自分たちの手で、幼い子どものための学校を建て始めたのです。

焼け跡から、まず子どもの学び場をつくろうとした——その姿に、心を打たれた一人の若い教師がいました。ローリス・マラグッツィ(1920〜1994)です。

マラグッツィは、この学校に関わるために教育心理学を学び直し、生涯をかけて、この地の幼児教育を築いていきました。今、世界が注目する「レッジョ・エミリア・アプローチ」は、この、焼け跡の小さな一歩から始まったのです。

「子どもには、100の言葉がある」——この教育の魂

レッジョ・エミリアを、ひとことで表す有名な言葉があります。マラグッツィの詩、「子どもには、100の言葉がある」です。

その詩は、こんな思いをうたっています(要約)。

子どもには、100の言葉、100の考え方、100の表し方がある。
話す、描く、つくる、歌う、驚く、愛する……100通りのやり方で、世界と出会っている。
なのに、学校や社会は、そのうちの99を奪ってしまう——。

胸に刺さる言葉です。

子どもは、話し言葉だけで世界を表しているのではない。絵、粘土、光、音、動き……たくさんの“言葉”を使って、感じ、考え、表現している。

だから大人がすべきは、「正解を教えること」ではなく、子どもが持っている100の言葉を、奪わずに育てること。子どもを「有能で、豊かな存在」ととらえる——これが、すべての土台になっています。

レッジョ・エミリアの、5つの特徴

① アトリエと、アトリエリスタ

園には、絵や造形のための「アトリエ」(アート専用の部屋)があります。そして、アトリエリスタ——アートを専門に学んだ先生——が常駐し、保育の先生(ペダゴジスタ)と一緒に、子どもの表現を支えます。「絵の得意な先生」ではなく、アートの専門家が、保育の中に、いつもいる。これは日本の園ではあまり見られない特徴です。

② 環境は「第三の教師」

レッジョでは、子ども・先生に加えて、“環境”そのものが3人目の先生だと考えます。部屋の広さ、光の入り方、素材の並べ方、鏡や自然光の使い方——空間のすべてが、子どもの「やってみたい」を引き出すように、ていねいにデザインされています。

③ プロジェクト活動

子どもの「なんで?」から始まる、長期の探究活動。ときに数か月〜1年に及ぶこともあります。

鈴木教授が、こんな例を教えてくれました。

「たとえば、『なぜ雨は降るのかな?』と問いかける。すると、子どもたちが、それぞれ絵に描いてくるんです。雨を降らせる機械を描く子もいれば、『神様が、お花を咲かせるために、上からじょうろで水をあげてるんだと思う』と描く子もいる。ひとつの問いから、まったく違う答えが、いくつも出てくるんですよ」(鈴木教授)

正解はひとつではない。子ども同士が、絵や言葉で考えを出し合い、「じゃあ、確かめてみよう」と、探究が深まっていきます。

④ ドキュメンテーション

先生は、子どもの言葉や活動を、写真やメモ、作品でていねいに記録します。この記録(ドキュメンテーション)を、園に掲示したり、先生同士・保護者と共有したり。「この子は今、何を考えているのか」を、みんなで見えるようにするのです。記録は、次の活動のヒントにもなります。

⑤ 子どもは「自ら学ぶ主体」

いちばんの特徴は、子どもを「教えられる存在」ではなく、「自ら学びをつくる主体」ととらえること。大人は、答えを与えるのではなく、問いと環境を用意して、子どもの探究に寄り添うのです。

なぜ、世界中が注目するのか

きっかけは、先ほどの1991年『ニューズウィーク』誌の紹介でした。そこから、レッジョ・エミリアの実践は世界へ広がり、いまでは30か国以上で取り入れられています。

なぜ、これほど注目されるのでしょう。

答えの決まった問題を速く解く力は、これからの時代、AIも得意になっていきます。だからこそ、自分で問いを立て、いろいろな方法で考え、人と協力して形にする力——レッジョが育てようとしてきた力が、いま改めて「未来に必要な力」として見直されているのです。

モンテッソーリ教育とは、何が違う?

よく比べられるのが、同じイタリア発祥のモンテッソーリ教育です。どちらも「子どもの主体性」を大切にしますが、道すじが違います。

  • モンテッソーリ:決められた教具を使い、子どもが一人で集中して取り組むなかで、自立を育てる。
  • レッジョ・エミリア:決まった教具はなく、子どもの興味から生まれる探究(プロジェクト)を、みんなで、絵などの表現を通して深めていく。

かんたんに言えば、モンテッソーリは「個」と「自立」、レッジョは「協同」と「表現」に重きを置く、というイメージです。

いいことばかり?——知っておきたい点

正直に、気をつけたい点もお伝えします。

レッジョ・エミリアには、「これをすれば正解」という決まったマニュアルがありません。子どもの興味から活動が生まれるぶん、先生には高い専門性と観察力が求められ、同じ形をそっくり再現するのは簡単ではないのです。

だからこそ、日本では「そっくりそのまま」ではなく、その考え方(子どもを尊重するまなざし)を取り入れる園が増えています。家庭でも、同じ発想です。

家庭でも、ちょっとだけ取り入れるには

「専門の園じゃないと無理でしょ?」と思うかもしれません。でも、大げさな準備はいりません。“まなざし”だけなら、今日から取り入れられます。

  • 🎨 「上手・下手」で評価しない。「どう描いたの?」と、過程や気持ちを聞く。
  • ❓ 「なんで?」「どう思う?」と問いかける。答えを教えず、考える時間をあげる。
  • 🧩 いろんな素材を、手の届く所に。紙、クレヨン、粘土、空き箱など。
  • 📷 作品や言葉を、記録して飾る(おうち版ドキュメンテーション)。「あの時、こう言ってたね」と振り返れます。
  • 🔍 子どもの「好き」を、とことん追う。虫でも、電車でも、その興味が探究の入り口です。

子どもの表現を、大切に残す

レッジョ・エミリアの根っこにあるのは、「子どもの表現を、価値あるものとして受け止める」という姿勢です。

その一枚の絵は、上手か下手かではなく、その子が世界をどう感じ、どう考えたかの記録。だからこそ、残す価値がある。

私たちキッズアートも、同じ思いで、子どもの作品を「誇れる形」に残すお手伝いをしています。
▶ キッズアートの特長

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よくある質問(FAQ)

Q. レッジョ・エミリアは、どこの国の教育ですか?
A. イタリアです。北イタリアの都市「レッジョ・エミリア」で、第二次世界大戦後に生まれた幼児教育で、現在は世界30か国以上に広がっています。

Q. 「子どもの100の言葉」とは、どういう意味ですか?
A. 創始者マラグッツィの詩の題名で、この教育の理念を表します。「子どもは、話す・描く・つくるなど100通りの方法で世界を表現しているのに、学校や社会がその多くを奪ってしまう」という思いが込められています。

Q. モンテッソーリ教育とは、何が違うのですか?
A. どちらも子どもの主体性を大切にしますが、モンテッソーリは決められた教具を使い個々に取り組み「自立」を、レッジョは決まった教具を使わず、みんなで探究する「協同」と「表現」を重んじます。

Q. 家庭でも取り入れられますか?
A. はい。「上手・下手で評価しない」「なんで?と問いかける」「作品や言葉を記録する」など、“まなざし”だけなら、特別な準備なしで始められます。

Q. 日本でも受けられますか?
A. 本家は市立のため、まったく同じ形ではありませんが、日本国内にも、レッジョ・エミリアの考え方を取り入れた(インスパイアされた)園や取り組みが増えています。

取材協力・監修

鈴木 正敏(すずき まさとし)教授

兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 小学校教員養成特別コース。専門は幼児教育・多文化教育。米国での研究歴を持ち、兵庫県内の保育所・こども園・幼稚園で長年にわたり実践指導を行う。3児の父。

※本記事は、2026年7月に実施した鈴木正敏教授へのインタビューをもとに、読みやすさのため一部を編集しています。